スペインタイルと出会うスペインの一日。
真夏のスペイン。照りつける太陽。強い日差しが眩しく、湿り気のない乾いた風が心地良い。
抜けるように青い空
古いレンガで組まれたアーチをくぐり抜け、鮮やかな縁取りが施されたストリート名を標すスペインタイルを頼りに、気になっていたレスタウランテにたどり着く。
店内に入る。やや年配のカマレラが「オラ!」と出迎えてくれた。人数を伝え、テラス席に座っても良いか尋ねる。「ウチは予約を取ってないから、どこでも座っていいよ」と威勢が良い。
店内を見回す。壁や厨房に至るまで、そこかしこに、色鮮やかな幾何学模様のスペインタイルがあしらわれていた。パラソルで日影になったテラス席に着くと、にこやかな表情をした先ほどのカマレラが、テーブルに注文を取りに来た。わたしの好みを伝えると、博学のカマレラはオススメの料理を次々に。テーブルに目をやると。これは、職業を表すタイルかな?ワイン職人の仕込み作業の一場面を切り取ったタイルがはめ込まれていた。
周りのテーブルでは、おしゃべり好きのスペイン人たちが、ワインを飲みながら、大きなジェスチャーを交えて、底抜けに明るい笑顔で話している。
乾いた風を運ぶ
最初にカマレラが長細いグラスに注いでくれたのは、綺麗な淡い黄金色のカバ。その中に小さな泡がシュワシュワと下から上へと昇っていく。ほんのり甘く冷たいカバが、体に染み込んだ。続いてガスパチョが来た。トマトといくつかの野菜とが溶け込み、ピリリとニンニクの効いた冷たいスープが暑さを和らげてくれる。
ふと、上の方に目をやると、外にせり出したベランダの床の裏側、青を基調としたスペインタイルが。ベランダに立つ住人からは見えない場所にも装飾を忘れない。
プリメーロ(一皿目)は、エンサラダ・デ・トマテ。トマトにオリーブオイルと塩をかけただけなのに、本当に美味しい。パン・コン・トマテと一緒にいただく。
セグンド(二皿目)は塩をふって一晩寝かせたバカラオにした。本来あっさりした鱈の白身が、程よい塩加減に。ソースがからまり絶妙の美味しさ。一緒に添えられたパタタス(ジャガイモ)にもソースをつけていただいた。
圧倒的な光を放ち日常を特別にする
食後に、カフェ・コルタード。
時計を見た。席についてからもう一時間は経っただろうか。コバルトブルーの海からはオレンジ色の光が白い壁に反射する。
スペインのランチ時間は長く、周りのスペイン人たちは、まだおしゃべりを続けていた。色鮮やかなタイルに囲まれて、ゆったりとした時が流れている…。
この国では、スペインタイルがそんな日常に溶け込み、彩りを添えている。
「日本に帰ったらこの絵タイルの表札を飾ろう。」と手にした一枚から私とスペインタイルとの関係がはじまった。ガラス質の釉薬がテラコッタタイルを覆う、その色彩と、光と影の織りなす一枚の絵タイルが何でもない1日に圧倒的な光を放つ。
私にとってのスペインタイルとは、日常を特別なものにするもの。そして、人を幸せにするもの。